ご挨拶
四世家元 川岸慎園
一期一会
むこうから「私をいけて!」と花材が集まってくるような華道家になりましょう、と先代から言われたことがあります。作品を作るとき「構想を描き、よし今回はこんな花材で頑張っていけよう」と意気込んでスタートします。順調に作品作りが進むこともあれば、難しい時もあります。願っていた花材が手に入らなかった、思っていた枝ぶりではなかった等々。時にふと立ち止まることもあります。こだわり過ぎず発想を転換したり、応じて対応する柔軟な気持ちと、自然を素直に受け入れる心で作品と向き合うことが求められます。その心が導いてくれると常々感じています。
花材との出会いはいけばなの醍醐味の一つです。「こんな花をいけたい」と願っても手に入らない。思わぬいい花材に出会えることもあります。命ある草木との出会いは仏縁です。その時その時に出会った花を全力で生かすのが我々の務めでしょう。
去る6月3日、松尾寺の境内に於いて第68回当流夏期講座「野外に大作をいける」を開催しました。今年は、またとない立派な花材に巡り会えました。松尾寺の親類のお庭の樹齢70年の柿の木です。都合で伐採しなければならず、その枝や根を花材として使えないでしょうかと有り難い申し出がありました。切り出された太い枝には苔が生(む)し、掘り起こされた大きな根は生命力に溢れ、限りなく七十年の命の重みを物語っています。いけばなの表現力が大いに問われる作品作りとなりました。一同の力で超大作「源深流長(みなもとふかくしてながれながし)」が完遂出来たことを嬉しく思います。
一期一会の出会い、有り難く。(平成30年7月1日 記)